雷対策の基本的な考え方

雷対策の目的は、「建物や人を守る」ことと「建物内の設備を守る」ことに大別されます。「JIS Z 9290-1 雷保護ー第一部:一般原則」では、雷からの保護手段として「雷保護システム(LPS)」の構築が記載されています。「JIS Z 9290-3 雷保護ー第三部建築物等への物的損傷及び人命の危険」でLPSに関して規定されています。我が国では、建築基準法で次のように記載されています。「第三十三条 高さ二十メートルをこえる建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。ただし、周囲の状況によつて安全上支障がない場合においては、この限りでない。」 ここでは雷保護システムの分類と、SPD(サージ防護デバイス)など雷防護製品を用いた雷対策の考え方をご紹介します。

雷保護システム(LPS)

外部雷保護システム(外部LPS)

落雷(直撃雷)による建物の損傷・火災を防ぐことを目的としています。

避雷針を含む「受雷部システム」、「引下げ導体システム」、「接地極システム」の3つで構成されます。建物ではなく避雷針で雷を受けることによって、雷電流を大地までスムーズに流すためのシステムです。

自然現象である雷・落雷は防ぐことはできないため、落雷を受けても「あらかじめ雷(電流)の通り道を作っておき、そこを通ってもらうことで建物や人へのダメージを減らそう」という考え方です。

図1 外部雷保護システム


受雷部システム
避雷針、水平導体、メッシュ導体で構成されます。避雷針は、突針の構造とすることで電界を集中させて落雷を受けやすい構造としています。雷撃が建築物等へ直接落雷し、損傷することを避ける目的で設置します。
引下げ導線システム
受雷部で受けた雷電流を接地へと安全に導く導線です。莫大な雷電流を安全かつ速やかに通電するために強度が必要です。
接地極システム
雷電流を安全に大地へと放出するためのものです。接地抵抗が高いと、雷電流によって大きな大地電位上昇が発生して雷被害が拡大しますので、可能な限り低い接地抵抗とすることが重要です。

当社では、接地抵抗低減剤(製品名:サンアース)を用いた接地極を構成して、一般的な接地電極よりもはるかにスムーズに雷電流を接地へと放出することができる接地極システムをご提案できます。

なお、雷による被害は直撃雷だけでなく、逆流雷や誘導雷(雷サージ)によるものがあります。そのため、直撃雷を対象とした外部雷保護システムだけでは雷対策として不十分であるということに注意してください。建物内部の設備や人を守るためには内部雷保護システムが重要です。

内部雷保護システム

建物に落雷があり、外部雷保護システムを通って大地に雷電流が流れると、接地システムの地電位が上昇し、周囲との間に電位差が生じます。

内部雷保護システムは接地や金属パネル等の人が触れる可能性のある金属筐体を共通化して接地することで危険な電位差(危険な火花放電)を発生させないようにする「等電位ボンディング(最新の規格では”雷等電位ボンディング”と呼ばれています)」を基本とした雷保護システムです。

図2 内部雷保護システム

電源線路、通信線路及び信号線路など直接接地ができない線路には、それぞれ適切なSPDを設置することで雷サージの危険な電圧を低減して等電位ボンディングを行い、雷サージが侵入しても機器や人に危険(感電事故)が及ばないようにします。

SPDと耐雷トランスを組み合わせて雷防護をする方法もあります。この方法では、SPDで制限した雷サージ電圧が、耐雷トランスによって1/1000に大きく減衰して二次側に現れるため、耐雷トランスの二次側には雷サージの影響がほとんど無くなります。

電気機器や設備のための雷保護対策(SPM:Surge Protection Measures)

落雷時の部分雷電流や誘導雷による被害を減らすことを目的とした対策です。

雷が発生すると、莫大な電磁界が発生します。この電磁界によって、金属線路に誘導雷が発生します。雷被害のほとんどは、この誘導雷によるものだと考えられています。

誘導雷の発生も防ぐことは難しいため、「発生した誘導雷を侵入させない」という考え方から成るこの対策が重要となります。

SPDを用いた雷保護対策

SPDを用いて機器や設備を保護する方法です。SPDは雷サージが侵入すると、機器の耐電圧以下に電圧を抑制し、それを接地に受け流すことで、機器に誘導雷が侵入することを防げます。機器とSPDの接地を共通にすることで、等電位ボンディングすることとなります。このことから内部雷保護システムの一部として密接に関わっています。

  • 等電位ボンディング法(共通接地法)

接地が別々であると、どこかの接地電位が上昇したときにほかの接地との間に電位差が発生します。この電位差がケーブルを通して機器に侵入します。もし電位差が機器の耐電圧以上だった場合、機器は耐圧破壊によって壊れてしまいます。そのため、等電位ボンディング法は、「接地を共通化して電位差をなくす」ことを基本としてます。接地電位の上昇によって機器の内部が絶縁破壊を起こして、機器が故障することがありますので、機器に接続される金属線路には適切なSPDを設置して、機器の内部に雷サージが侵入しないようにします。

等電位ボンディング
図3 等電位ボンディング法

 保護したい機器に接続しているケーブルとアース線との間にSPDを設置し、機器とSPDの接地を共通にします。SPDを通して接地が共通化されているため、電源線と通信線間の電位差を機器内部の耐電圧以下に抑制することによって、機器を防護することができます。

  • バイパス法

適切な接地がないと等電位ボンディング法は行えません。そのため、「接地を介さずに誘導雷を別のケーブルに逃がす」バイパス法があります。

バイパス法
図4 バイパス法

保護したい機器の電源線と通信線をSPDを介して接続します。一方のケーブルから誘導雷が侵入すると、SPDが動作することで、誘導雷は機器の中を通らず、もう一方の線路に流れていきます。そのため、機器は誘導雷の影響を受けずに済みます。接地が取りづらい一般家庭や既設のオフィスなどで用いられる方法です。

  • 絶縁法

電源線側には、高耐圧の耐雷トランスを使用して、電源系統からの絶縁を確保し、誘導雷等が機器の中を通り抜けていかないようにする絶縁法があります。通信線側には、図5のように通信用SPDを使用する方法と図6のように絶縁トランスを使用する方法があります。また、光ファイバーケーブルを用いる方法もあります。あらかじめ誘導雷の電圧の大きさを想定できる場合に有効です。

図5 電源線側に耐雷トランス、通信線側に通信用SPDを使用する場合
図6 電源線側に耐雷トランス、通信線側に絶縁トランスを使用する場合

  • 分離接地法

接地を共通化できない場合には、誘導雷が侵入した時、接地間に電位差が発生し、機器を破壊します。その対策のため、接地間に接地間用SPD(アースバランサー)等を接続し、誘導雷等の侵入の際に接地間用SPDが動作することで等電位化する方法です。通信装置など、基準電位を確保するために他の接地と分離しておく必要がある場合に接地間用SPDを用います。接地間用SPDによって、常時は接地を分離した状態で確保して、誘導雷などの異常電圧が発生したときにだけ、接地間用SPDが動作して等電位ボンディングした状態になります。

分離接地法
図7 分離接地法